Columnコラム
什刹海の池を守る男性
北京の旧市街にある什刹海公園は、3つの池からなっています。夏はここで涼んだり、カフェやバーでお喋りしたりでき、冬には凍りついた池でスケートを楽しむこともできます。かつては皇帝の一族が暮らすエリアでしたが、いまは市民の憩いの場になっています。
8月中旬のある日、公園内の2つの池をつなぐ銀錠橋の近くに人だかりができていました。皆、水面を眺めているようです。同じ方向へ目をやると、そこには湖に入って何かを探す初老の男性の姿がありました。そばには発泡スチロールの箱を乗せたサーフボードが浮かんでいます。落とし物でもしたのでしょうか。様子を伺っていると、近くの岸から1組の男女が池の男性に何やら声をかけていることに気付きました。
「足の少し手前にあります。」
指示に従って男性が拾い上げたのは、ビール瓶です。サーフボードの上の箱にビール瓶を投げ入れる男性、どうやら彼は池の底のゴミを拾っていたようです。その様子を、通りがかる人々が足をとめて、真剣に眺めています。中には、赤ちゃんを抱っこしている若い夫婦もいました。
「お爺ちゃん、池をきれいにしているのね。素晴らしいね!」
「きれいになったね。お爺ちゃんにいいね!しないとね」
ゴミ拾いを見ながら、父親らしい男性が「ゴミをむやみに捨てちゃだめだよ。わかったね」と5〜6歳の男の子に言い聞かせています。
今度は、通りがかった男性が、「この辺のバーの酔っ払いが捨てたんだ」と教えてくれました。
この公園には、湖の清掃を担当する管理部門もあるのですが、毎日の掃除では湖の水面をさらうのが精一杯。底に沈んでいるゴミまでは手が回っていませんでした。そこで立ち上がったのが、この男性。北京市内のホテル・長城飯店で働く60歳の陳英さんでした。
拾ったゴミで箱がいっぱいになると、陳さんはそれを上にいる仲間に渡して、近くのゴミ箱に捨ててきてもらいます。これが、30分も経たないうちに4回も繰り返されました。
岸から陳さんにゴミの位置を教えていた女性、劉麗さんにも話を伺いました。
「今日たまたまここを通りかかって、ゴミ拾いをやってるもんだから。力になりたくて声をかけてたのよ」
なんと劉麗さんは陳さんの仲間というわけではなく、偶然通りかかった方でした。
ゴミ拾いもひと段落、休憩をしている陳さんに話を伺いました。
「この活動を始めて何年になりますか」
「2年です。去年はこの銀錠橋の左右50メートルをきれいにしました。今年はこの辺を掃除すれば、大体終わりかな」
いくらかゆとりのある暮らし、「小康の暮らし」について、陳さんはどう考えるのでしょう。
「小康の暮らしというのは、優しい奥さんとしっかりした子どもがいて、ご近所さんと仲良くできて、衣食に困らないことかな。私はもうとっくに手に入れたさ」
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